夕食の時間
大浴場の見学を終えた頃には、夕食の時間として指定した「18:00」が近づいていました。
三時間ほど前、空港に着いたときはひどい飛行機酔いで具合が悪く、今回の旅行で最も楽しみにしていた「あらや滔々庵での夕食」を無事に食べられるか心配だったのですが、館内を巡っているうちにすっかり気分も良くなっていました。
17:50頃、部屋のドアがノックされ、ついに夕食の始まりです!
祝いの言葉が嬉しい
↑おしぼり、冷水ボトル、お冷や用グラスがセットされたあと、最初にテーブルに置かれたのは食前酒。「菊姫にごり酒 一年物」です。
仲居さんが母の杯に注いでくださる際、母の定年退職について「お疲れ様でございました」と言葉をかけてくださったおかげで、なんとなくその場の「祝いの席度」がアップして嬉しかったです。
突き出し
↑続けて、突き出し(「湯葉すり流し」、「胡桃豆腐」)と、八寸の載ったお盆が出されました。
↑最初に箸をつけたのは「湯葉すり流し」。湯葉というから、シンプルに豆乳っぽい味わいなのかと思っていたら、しっかりダシがきいていて美味しい!
起床から夕食にいたるまで、口にしたのは出発前の「梅干し一個」と、お宿到着直後の「麩饅頭+抹茶」だけだったのでお腹はぺこぺこ。この「湯葉すり流し」が胃に染みました。
↑「胡桃(くるみ)豆腐」は、胡麻豆腐の胡桃バージョンのような感じで、ねっとりとしてこれまた美味しい。上に、蜜をからめた胡桃がのっていて、これも良いアクセントになっていました。
八寸
↑八寸は、全七種。一つずつクオリティーが高いです!
中でも、「秋刀魚の棒寿司」は、薄切りの生姜が入っていて、生臭くなく美味しかった。「白山堅豆腐の味噌漬け」は、「白山堅豆腐」という地元の食材が使われているのが良いですよね! はるばる石川県まで来たんだなあ~と思えます。塩気がちょうど良く、チーズのようで美味しい!
「石垣むかご真薯のウニのせ」は、柔らかなかまぼこのような感じ。
そして「きぬかつぎ」は小さな里芋を皮のまま蒸したものなわけですが、私はこれを食べるのが初めてで、皮まで食べてしまいました。
すると母に「それは皮を剥いて食べるものだよ」と言われ……(笑)。でも、じゃがいもの皮のように薄くて食べやすく、その後、お腹の調子がおかしくなることもありませんでした。
「芹の胡麻浸し」には、しめじと白ごまも入っていました。カツオだしがよくきいています。
「車エビ」はカラリと揚げてあり、海老フライのようでした。身がプリプリ柔らかで美味しかった!
↑ちなみに箸は「利休箸」(りきゅうばし)(杉製)で、ひんやり湿っていました。「清めの意味と、手にしっとり馴染むように冷水で湿らせてあります」との説明がありました。
また、箸置きは「おめでたい松」とのことで、今回、母の定年退職祝い旅行であることを意識してくださったようでした。その心遣いが嬉しかったです。
椀物
↑次は「きのこ真薯の椀物」。柚子が良い香り! 真薯にはしめじと椎茸がたっぷり。ふわっふわで、ダシをすすりつつ食べると満足感大。
↑そしてお椀が運ばれてきたタイミングで、「お飲み物はお熱いお茶をお持ちしましょうか」と、仲居さんが加賀棒茶の入った急須を持ってきてくださいました。ありがたい!
お茶は有料かと思っていた
実は、旅行の計画を立てている段階で、「あらや滔々庵の夕食時における飲み物」については不安を抱いていたのです。
なにせ、私は高級旅館に泊まるのは生まれて初めて。高級旅館って、夕食時に「有料のお酒」を頼むのが一般的で、酒を飲まない人は「有料の水やお茶」を頼むことになるのかな? なんて思っていたのです。
ですから、最初に冷水ボトルとグラスがセットされていたことにまず安心しましたし、さらに、こちらが何も言わなくてもお茶を用意していただけて、とてもありがたかったです。もちろん、余分なお金は取られませんでした(笑)。
ちなみに、あらや滔々庵のお水はとても美味しいんですよ! とてもクリアで、ミネラルウォーターなのかと思って伺ったら「水道水なんです」とのこと。でも、多くのお客さんが同じように、この水が水道と知って驚くのだとおっしゃっていました。
お造り
↑次は楽しみにしていた「お造り」! 魚、貝、イカ、海老と、バランスの良いラインナップ!
どれも新鮮で! 臭みがなくてとっても美味しいです!
調味料として、「醤油」だけではなく「能登の粗塩」が用意されていたのが面白かったです。塩で刺身を食べるのは初めてで、試してみた結果、魚の甘みは引き立つものの総合的にはやっぱり醤油の方が好みかなと思いましたが、新たな刺身の味わい方を教えてもらったようで楽しかったです。
↑あと、特筆すべきはお造りに添えられていたツマ! 細く切ったシソが混ぜてあって、とても香りが良く、美味しかったです。このツマだけでもわさわさ食べたい感じでした。
食べたかった「のど黒」
↑次は「焼き物」。「のど黒の塩焼き」です~~! 食べたかったのど黒~~!!
軽く酢橘をかけていただきます。とっても良い塩加減! 皮まで美味しい! よく脂がのっています! 添え物の「焼き銀杏」も、熱々ツヤツヤほっくり! 「酢取り茗荷」も、さっぱりしていて美味しかったです。
鴨ロース
↑続いて「口替わり」の、「鴨ロース煮」! 鴨肉は柔らかくて、醤油ベースのとっても良いお味です。
肉類はその臭みが苦手だという母も、この鴨ロース煮は「美味しい」と喜んで食べていました。
添えてあるのは、「イチジクの白掛け」。イチジクに、豆腐ベースの白和え衣と、石榴(ザクロ)が一粒のっています。とても甘いイチジクなのですが、豆腐ソースとともに食べることで立派な一品料理になっていました。
マスカットも実がパツパツでジューシーでした!(母と、「これ、皮は剥いて食べる? そのまま食べる?」なんて言いながら、結局できるだけ皮は剥いて食べました。)
鮑の炭火焼き
↑そしてお次は、「強肴(しいざかな)」の「鮑とバイ貝の炭火焼き 肝ソース(+わかめ、しめじ)」です。真っ赤に燃えた炭が入った七輪が運び込まれて、仲居さんが網の上で焼いてくださいます!
なんだこのパフォーマンスは……(笑)と思いながらも、こういうのがあると楽しいですよね。
貝殻の中でグツグツと煮える鮑……。
↑火にかけてから3~4分で食べ頃となり、仲居さんが器にのせてくださいました。
味噌煮込みっぽい
この、「鮑の肝ソース」という料理はあらや滔々庵の名物らしく、色んな「あらや滔々庵旅行記」を見ると必ずと言って良いほど夕食に出ていたので、私たちのときも出るのかなと思っていたら出てきました(笑)。
私は「肝(キモ)」が得意でなく(レバーやフォアグラなども)、「肝ソース」というのがどんなものなのか不安だったのですが、おそるおそる食べてみると、意外なほど肝っぽくない!
八丁味噌っぽい、辛みのきいた味噌の風味が前面に出ていて、「味噌煮込み」といった感じの味わいです。
これなら大丈夫だ! と思って安心して食べました。全体的にミディアムレアといいますか、火が通りすぎていない感じで、食材の新鮮な味わいを感じられました。目玉の鮑はキュッキュシャキシャキしていて歯ごたえが良く、磯の香りがして肝ソースとの相性も良く、美味しかったです。
(歯があまり良くない母は、鮑を苦手としているのですが、そんな母も「ぎりぎり食べられる固さだった」と言っていました。)
蒸し物
↑次は「蒸し物」。加賀祝い料理の「鯛唐蒸し(からむし)」です。
とろみのついた薄味のだし汁の中に、鯛の身でくるんだおからが入っています。
このおから、プレーンではなく、五目おからといいますか、中にごぼうやしめじが入っていて、味わい深く美味しいのです。そして、すり鉢ですってあるかのようにとっても滑らか。
おからですから、箸でつまむうちにボロボロ崩れて、しまいにはだし汁の中にどろどろに溶け、すべてをすすって飲むことになりました(笑)。
母の定年退職を意識して出してくださったであろう「祝い料理」に心が温まります。
毛蟹
↑次は「酢の物」の「ゆで毛蟹」。加賀野菜の「加賀太胡瓜(かがふときゅうり)」「金時草(きんじそう)」が添えられており、土佐酢に浸しながら食べる趣向です。
↑蟹の身は自分でほじって出すことになりますが、これが、毛蟹のトゲが指に刺さって痛い!!(笑)
母と「痛い痛い」と言いながら黙々と身を掻き出しました。
しかし、蟹の酢の物なんて贅沢ですよね。痛い思いをした分、ありがたみもアップした気がします。
あと、加賀野菜二種、初めて食べましたが、胡瓜はみずみずしく、金時草はクセがなく体に良さそうで、もっと食べたい感じでした。
とろろ飯!
↑いよいよ「お食事」! 「とろろ飯」です。もうネーミングだけで美味しそうです。「白山なめこの赤だし」、「香の物」(白菜、大根(赤紫蘇漬け)、野沢菜)つき。
香の物は自家製なのだそうです!
↑ご飯はおひつで出てきます。石川県産無農薬米とのことで……石川県産というだけでも旅行情緒あふれていて嬉しいのに、さらに無農薬とは素晴らしいっ!!
↑ご飯にとろろをかけ、針のりとわさびをのせていただきます。
美味しい
これが……とっても美味しい~~~!!
まず、ご飯が美味しいです。つやつや、ふっくらで、一粒ずつが立っています。そこに、味噌とだし汁でちょうど良い味のついたとろろをかけ、ご飯とともに食べると、これまた美味しい~~!!
とろろの味が足りなければ醤油をかけてくださいとのことでしたが、醤油は一切使わず済みました。
↑おひつのご飯は、何杯もおかわりできるようにたっぷり入っています。本当は、おひつが空っぽになるまで食べたかったです。けれど思い浮かんだのは翌日のこと。
朝食を美味しく食べたいし、その後、「平泉寺白山神社に行く」というかなり重大な予定をこなすのに、胃もたれでは電車で乗り物酔いしてしまうかもしれない。
体調を考えれば、ここで食べ過ぎるのは得策ではない……。
ということで、泣く泣く、おひつのご飯は食べきらず、「腹八分目」でとどめることにしました(それでも、茶碗に軽く三杯は食べました)。
デザート
↑そしてラスト! 「デザート」の「栗アイス、水ようかん、梨」です。
デザートが運ばれてきたタイミングで、翌日の朝食の希望時間を聞かれました。7:30から三十分刻みで9:00まで。私たちは8:00を希望。
さて! それでは最後のお楽しみをいただきます! 「栗アイス」はお取り寄せ品とのことでしたが、栗たっぷりで、栗好きの母が大喜びしていました。超キンキンに冷たかったです。
「水ようかん」は甘さ控えめでツルンと美味しい。「梨」もジューシーで、口の中が最後に爽やかになりました。
体に優しい内容
こうして! 計三時間ほどかけた夕食が終わったのでした。
夕食の中で、肉は「鴨ロース」だけ。あとは野菜、豆腐、魚介類で構成されていたのが体に優しくて私たち好みでした。
事前に「あらや滔々庵」の夕食の評判を調べていた際、「味が濃い」という声も目にしていたのですが、まったくそんなことはなく、すべてほどよくちょうど良い味付けでした。
手抜きの料理がなくて、どれも手が込んでいて、「こういうスタンダードな懐石料理が食べたかったんだよ!!」という感じ。とても満足しました。美味しかったです。
この夕食だけに値段をつけるなら「1万5千円」だねと母と話しました。
仲居さんの距離感も良い
食事中、仲居さんは部屋にずっとつきっきりなのか? それとも配膳のときだけいらっしゃるのか? ということが旅行前は気になっていたのですが、実際は後者で、料理を運んでくださったあとはすぐに部屋から去られるので、母と水入らずでリラックスしながら食事を楽しむことができました。そのへんの心遣いもさすがだなと思いました。
あと、ご飯がおひつで出てきて好きなだけ食べられるのが良いですね。ここで、満腹加減を調整できます。おひつのご飯すべてを食べればかなりお腹いっぱいになるんじゃないかなと思いました。
加賀の地のもの(食前酒(菊姫)、白山堅豆腐、毛蟹、加賀太胡瓜、金時草、白山なめこ、石川県産米等)がたくさん出てきたのも嬉しかった! 地元(北海道)では食べられないものばかりなので、どれも輝いて見えました(笑)。
「夕食が美味しい宿」という条件を掲げて選んだ「あらや滔々庵」。大正解だったと思います!
食後は、バーの「有栖川山荘」の見学に行くことにします。それでは出発!(→「あらや滔々庵離れのバー有栖川山荘」に続く)